映画『ザ・コーヴ』を観た

物議を呼ぶ作品だけあって、ブログに書こうか書かまいか悩んだのですが、やっぱり思い切って書きますね。
そう、この作品、今日本でとーっても波紋が広がってる作品、そして今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門を受賞した作品ですね。実はこの作品、アカデミー賞受賞以前から気になってたんです。いろんなニュースサイトで読んだり、購読してるブログなどで知って、ある程度要約は掴めてましたが、実際観てみて予想以上にいろいろ考えさせられたました。

まず最初に強調しておきますが、私は昔からイルカが大好きです。イルカの写真集を集めていた時期もあったし、ジュエリーとかもイルカのモチーフを好んで買ってたくらいイルカファン。だからこの作品は、やっぱり観てて衝撃的でした。イルカが苦痛にのたうちながら息絶えていく姿は、涙をこらえずには観られなかった。それは、本当です。

でも、観終わって思ったんですが…。この映画、やっぱり一方的過ぎるかなと。
スタイルもテーマも全く違うけど、少なからずマイケル・ムーア的な偏った視点が類似してるかなとも思いました。(でも、マイケル・ムーアは隠し撮りしてませんよね?してました?ウロ覚え 😐 )
そこで、イルカの知能の高さを議論の焦点から除いて、私がこの映画に賛成できない理由は大きく分けてこれ。

  1. 隠し撮りは、潔くない。
  2. 「日本人の知らないイルカ猟」を強調するため、東京・大阪などの大都市で街頭インタビューは浅はか。
  3. 日本の食文化を否定する議論が納得いかない。
  4. イルカの捕獲・水族館へ売却に対する議論に納得いかない。


上記箇条書きを少し掘り下げて説明しますが、(1)に関しては、そのままですね。地元漁師や町が撮影許可しないからという苦肉の策からなのでしょうが、やっぱりそれでも潔くないような気がします。彼らの権利を無視して、自分達の言論の自由を押し通すのも、なんか違うのでは?と思いました。

(2)に関してですが、現代社会の中心である都市部でのインタビューは、知らない人がいるのは当たり前ですよね。アメリカ中西部の田舎で、アライグマやリスが狩りの対象である事実を、ニューヨークの街頭でインタビューしても同じ結果が得られると思います。それと同じですよね。「日本人の代表=都市に住む人達」という図は、間違っててあまりにも浅はかで説得力がありません。

(3)ですが、日本の食文化を否定するのなら、牛・豚・鶏どうなるの?と言いたい。ただ、そこで「牛・豚・鶏は家禽動物であるから、同じ議論の対象にならない。」と反論が来るかもですね。では、他国の犬・猫を食べる文化、アザラシやワニやカンガルーを食べる文化はどうなるのか?どちらにしても、「命」に変わりませんよね。イルカ猟が残酷なら、他の「命」を奪って生き延びる人間を含む、全ての動物全体を否定する事になるような気がします。それを食物連鎖と言いますが、それまで否定してしまったらただのおとぎ話に過ぎません。

最後の(4)は、捕獲したイルカの売買を非難してる点です。水族館の是非を議論するのなら「動物園」の是非も問われるはずでは?と思いました。それと、イルカの売買という論点で、売る側の漁師ばかりを非難するのは一方的ですよね。

その他、議論の対象になってる「水銀含有量」の件や、日本政府への批判などありましたが、その辺は正直よくわからないので言及は避けます。(たぶん「水銀含有量」の件は、行政で事実確認が進行中だった気が…。) あと劇中気になったのが、むやみに漁師達をヤクザ呼ばわりするのは、あまりに低レベルな世界だなと。まあ、これだけではないど、全体的に大袈裟な演出と言動は、作品の質を下げてるのでは?と思いました。

この作品のアカデミー賞受賞は、正直とっても残念でしたね。同じくノミネートされた作品「フード・インク」(Food, Inc.)の方がよっぽど私達の生活に関連してるテーマを扱ってますよ。「水銀含有量」も問題だけど、私達の毎日の食生活で摂取量の多い牛肉・鶏肉のホルモン剤問題の方が世界全体にも関わる大問題なのでは?そして、世の中もっと真剣に考えなくちゃいけない問題がいっぱいです。それは、貧困や戦争、人身売買や地球温暖化など盛り沢山。だから、今回のアカデミー賞の結果は、いろんな意味でアカデミー自体の質を疑う結果でもあったかもです。

最後になりましたが、これだけは理解できます。イルカが知能が高いということ。そして、調教師からイルカ保護活動に一転したリック・オバリー氏の情熱。あの情熱に私はリスペクトします。一方、いろんな最先端の機材を使ってでの隠し撮りも、根性が並大抵じゃぁありませんね。それも評価されて、アカデミー賞を鷲掴み状態だったのか。ま、良い悪いは別として、費やしたお金・時間・努力・情熱。ある意味、その辺は凄いのかもしれません。